essay

パーフェクトな手帳

 手帳を新しくした。ブルックリンのちょっと大きめA5サイズ。色は深いブルー。

 僕は一年ごとの使いきりの手帳は好きじゃない。中身を交換して毎年使える手帳が好きだ。
 さんざん大騒ぎして、いろいろさがしまわって、ファイロファックスの黒いバイブルサイズにしたのが四年前。あんなに気に入ったのに、やはり思った通り好みと要求が変わった。それでも四年も使ったのだから自分を褒めてやりたい。上等上等。右を向いても左を向いても、エコ、エコと騒いでる昨今に、まだまだ使える手帳を買いかえるなんて怒られそうだが、熱しやすく冷めやすいB型の典型の僕だから、ま、仕方ない。いつも好きなものだけに囲まれていたいんだもん。

 実は事の発端は財布だった。気に入って十五年ほど使い込んだベッペスパダチーニの札入れと小銭入れが、あまりにもくたびれたので新しい財布をさがしたが、なかなか納得のいく物が見つからない。やむを得ずそこそこ許せる程度の物をとりあえず買ったのだが、その時に一番こだわったのは色だ。男の持ち物は靴でも鞄でもベルトでも基本は黒か茶。そしてこれを原則統一しないとおかしなことになる。ところが財布まで「黒い日用」と「茶色い日用」に持ちかえるのはいくらなんでも面倒。そこで「青ならどうよ」という結論にいたり、比較的濃い色のフォーマルな時にも使える青にした。
 でも、やっぱりそこそこ許せる程度でとりあえず買った財布は気に入るわけもなく、その後もあれやこれやとさがしていた。

 あった。ついにあった。これはというのがあった。もう一目惚れ。なんだこんなところで僕を待っていたのかと思うようなあっけなさでそこにあった。ブルックリンの財布。しかも青山の本店にはない東京は新丸ビルの2階の店だけにあるバージョン。細かいところが僕の好みにぴったり。
 当然財布にあわせて、名刺入れも定期券入れもキーホルダーもそろえたいなんて思いながら、ふと隣の棚を見るとなんと手帳があるじゃないですか。ん、こ、これは・・・
 安い買い物ではないので、結局その日は考えがまとまらず何も買わずに帰ってきたのだが、それ以来その手帳が頭の中をぐるぐるまわりはじめた。でも季節は夏。こんな時期に手帳を買いかえるのはいくらなんでも効率が悪い。

 待った。ずっと待った。タイミングを待った。そしていよいよ11月。もういいだろう。もう許してくれるだろう。来年の手帳を買っても誰も文句は言わないだろう。実際来年の予定が結構つまってきてしまったし。
 
 行った。新丸ビルに行った。ブルックリンに行った。行ったというより、ほとんど小走りだった。
 何かおさがしですかと言わんばかりの店員さんに、これくださいと言い切った。ええ、いいんですかと驚き顔の店員さんに、自信満々にうなずいてやった。
 ああ、すがすがしい。なんてすがすがしいんだろう。財布よりも先に手帳を買ってしまったことだけが、ちょっと自分でも納得いかなかったが、気分に流されるのもまたいいし、また財布はそのうち買えばいいさ。

 ところがひとつ気に入らない。手帳の中身、つまりスケジュールを書く欄が気に入らない。一日を一時間おきに分けてあって、そこにスケジュールを書くタイプ。でもスケジュールは必ずしも一時間ごとじゃないし、10分、15分刻みのスケジュールは書けないし、24時までしか書くところがないのでそれ以降のスケジュールが書けない。それ以降にスケジュールがあるのもどうかと思うが、土曜日と日曜日の欄が小さいのはやはりどうしても気に入らない。別の手帳を買って中身を入れかえることにした。

 さがした。結構さがした。とことんさがした。結局伊東屋で見つけた手帳の中身と、東急ハンズで見つけたノートをあわせて入れて完成した。
 パーフェクトだ。パーフェクトな手帳だ。英語の発音だけいいケインコスギなみのパーフェクト加減だ。一生この手帳でいい。

 と、今は思うのだが、いつかきっと飽きる日が来るのだろう。総額5万円近いんだから、少なくともキリよく5年は使わなくちゃ。

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