essay

リセット人生

 掃除が好きである。整理整頓はもっと好きである。これはたぶん天性のものなのではないかと思う。いや、これが僕に課せられた使命なのではないかとも思える。掃除をすることが仕事だったらどんなに楽しいだろうかと考えることすらある。
「仕事がなくなっても、掃除で稼げるんじゃない?」
 と家人からも言われる。実はこれは、あまりに掃除に執着する僕への厭味なのだが。

 暮れの大掃除。もちろん僕はこの行事が嫌いではない。毎年いつ何をやるのか綿密に計画を立て、紙に書き出し、それを正確にこなしていく。窓、電気、エアコン、洗面所、風呂場、箪笥、物入れ、本棚などなど。そして各部屋の家具を全てどかして、隅々まで念入りに行う。
「普段からきちんと整理整頓し、それなりの掃除をしているのだから、ほとんどする必要がない」
 というのは家人の言葉。
 しかしそれでは気が済まないのである。普段ベッドやソファーをどかしてまではやってないじゃないか。カーテンレールの上まではやってないじゃないか。引き出しの中を全部出してまではやってないじゃないか。換気扇を分解してまではやってないじゃないか。考え出したらきりがない。でもできる限り細かいところまで綺麗にしたくなるのである。

 掃除や整理整頓には才能が必要だと時々思う。それは詞を書くことや、音楽をやることと同じで、いかに好きかということでもある。好きであれば、やり方に工夫を凝らす。完璧に近づきたくなる。そしていつも100%はできず、次回はもっと上を目指したくなる。

 僕がいつも心がけていることは、いらない物は捨てて必要な物だけを大事にすることと、全ての物のしまう場所を決めておくことだけだ。うーん、簡単、簡単。その筋の本や、テレビの番組で、それらを生業としている方々も同じようなことをおっしゃっている。
 不必要な物は、たとえただでももらわない。図らずもいただいてしまった場合は、誰か必要な人にあげるか、大変申し訳ないが捨てる。1年以上使わない物も同じだ。銀行でもらった名入りのペン、ずっと袖を通していない洋服、旅先でつい買ってしまったどこに飾ってよいかわからない置き物、いつか見直そうと思っているだけの雑誌、いつか使おうと思っているだけのデパートの紙袋など、あげればきりがない。意外と実は使わない物が家の中にはあふれているものである。
 そのかわり本当に必要であれば、多少値が張っても自分らしい物を吟味して買い、大事に使う。そしてそれぞれの物が置かれる、あるいはしまわれる場所を良く考えて決める。使ったら必ず同じ場所に戻す。たとえCD1枚でも、本1冊でも、手紙1枚でも。ついでに全ての物を部屋や家具に対して垂直、平行に置く。(もちろん飾りとしてわざと斜めに置く物もあるのだけれど)
 これで家の中は簡単に片付く。物は少なくなる。決して殺風景にしようと言うのではない。部屋が片付いていると掃除がラクである。つまり家がいつも綺麗になるというわけである。

 こんなことを当然の顔をして言うと、ほとんどの人からは変わり者、異常者のレッテルを貼られる。まあ、性分なのだから仕方ないと自分でもあきらめている。
 掃除術、整理整頓術に関する本を書けと言われれば、すぐに書けると思う。しかし、これらの本を読む方には大変申し訳ないのだが、読んでもむだだとも思う。絶対に継続しないのである。これらの本を手に取る掃除下手、整理整頓下手の方は、失礼だがほぼあきらめた方がいい。掃除や整理整頓ができたから偉いというわけでもない。人にはそれぞれ得手、不得手というものがある。だから僕は人には強制しない。自分の関わるところだけが片付いていれば良く、自分のこだわりで、自分で綺麗にし、自分だけで満足している。

 10歳になる息子は、物心ついた頃から綺麗好きであった。誰も教えていないのに彼の本棚に並ぶ漫画は、当然のごとく分類別に1巻から順に並んでいる。友達が遊びに来て部屋を散らかすと、度々「片付けターイム!」と叫んで、おもちゃを一度みんなでしまう。母親が何気なくおいた新聞紙をまっすぐに置き直す。
 これ以上症状が進むと、世の中生きにくくなる上、友達から嫌われる可能性があるという経験に基づく思いから、最近はなるべく細かいことはどうでもいいんだと注意することすらある。部屋を片付けろなどと叱ったことは、もちろんこれまで1度もない。
 遺伝だろうか。環境だろうか。

 2001年の暮れの大掃除もほぼ予定通りに終了させた。今回はかなり100%に近い満足の行くものであった。掃除を済ませると、人生がリセットされるような気がする。ま、いろいろ失敗や嫌なこともあったし、思った通りには行かなかったけど、また1年がんばろうという気が起きる。
 でも、だいたいそれも3日で忘れてしまう。とっても反省の苦手な僕は、結局毎年リセットばかりしているような気がする。僕の人生はリセットばかりで、一向に前へ進まない。
 そう、人には何事も得手、不得手があるからね・・・

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